日本のオケの経営問題について再び(または私の「ドンブリ勘定」)

 オーケストラの財政難について取り上げた「クローズアップ現代」(1/17オンエア)の番組内容に物足りないものを感じたので小言を書いたのだが、今改めて読み直してみると我ながら酷い文章だな(笑)。これでは不味いと思い、もう少し考えてみることにした。といっても結局は「どうすれば収支がトントンになるか」という議論にしかならないのだけど。
 まずオーケストラの運営のためには最低限どれくらいのお金が必要なのか、自分なりに計算してみた。ドイツでは芸術関係の公共施設の職員の平均年収が「500万円」(参照1)ということなので、このエントリではこの数字を下敷きにしてみた。オーケストラの団員数は多いところで100名程度だけど、最小限必要な人員はどれくらいか。ベートーヴェンブラームス交響曲を演奏するための標準編成といえる「二管編成」なら、管楽器奏者はフルート、オーボエクラリネットファゴット、トランペット、トロンボーンが各2名、ホルンが4名、そしてチューバが1名で合計17名となる。弦楽器群は「10型」と言われる基本的な編成だと第1バイオリンから順番に10名、8名、6名、4名、4名で合計32名。これに打楽器奏者1名を加えると「50名」が管弦楽団の必要最小限の団員数、ということになる。そうなると団員の年収の合計は;

 500万(円)×50(人)=2億5000万(円)

となる。常任指揮者(または音楽監督)のギャラは、正直ピンキリだろうし私も相場を把握していないのだけど、ここでは仮に「3000万〜5000万円」程度だということにしておく。この額をさっき出した団員年収総額と合わせると約3億円。あと客演指揮者やソリストのギャラ、運営のための諸経費などもよくわからないけどそれらに2億円かかると仮定すれば、結局オケの最低限の支出は年間で「約5億円」という金額が出てくる。
 次は答え合わせだ(笑)。「クローズアップ現代」では大阪フィルの収支だけを紹介していたが、「クラシックを聴こう!日本のオーケストラの基礎知識」というサイトでは日本の主なオーケストラの団員数や平均年収、収支の概略などがリストアップされている(参照2)。一番支出の多いオケは予想通りN響(31.3億円/年)。それに次いで東京フィル、東京都響、そして読売日本交響楽団などが20億円台、そのあとは新日本フィル名古屋フィル、大阪フィル、オーケストラ・アンサンブル金沢らの年間10億円前後の団体が並んでいる。反対にリスト上一番支出が少ないところは京都市交響楽団京響)なんだけど、「1.4億円/年」という数字はどう考えてもおかしい。だって団員平均年収が584万円、団員数が84名だと年収総額だけで約5億円になるんだから。この数字はミスプリントかもしれないので京響のことは議論から外しておこう。となるとセントラル愛知交響楽団(2.7億円/年)あたりが日本では最低ラインか。このあと関西フィル(4.2億円/年)、山形交響楽団(4.3億円/年)、大阪シンフォニカー(4.7億円/年)などが続く。私がなんとなく導き出した「最低で年間5億」という「ドンブリ勘定」は当たらずも遠からず、といったところか。しかし5億円以下の楽団は相当切り詰めているんでしょうね。実際関西フィルは平均年収244万円だし(ちなみに平成17年度のサラリーマンの平均年収は男性で538万円、女性で273万円:参照3)。
 この次は収入だ。先ず私の「ドンブリ勘定」から(笑)。1500人収容のホールで年間20回の自主公演(=定期演奏会)をこなすと仮定し、チケットの額を1枚5000円、そして公演が全てソールドアウトしたら、入場料収入はどれだけになるか。

 5000(円)×1500(人)×20(回)=150,000,000(円)

 年間の入場料収入は「1億5000万円」である。そして他から招聘を受けて出演した場合に楽団に支払われる公演料(ギャラ)はいくらか。「オペラ一回あたり400万」というデータ(参照4)があるが、オーケストラならどれくらいだろう。演奏時間は若干短いので「300万」としておこう(笑)。大体プロオケは最低でも年間100回はコンサートをこなすので、自主公演以外の公演は80回。これで得られる出演料は;

 300万(円)×80(回)=2億4000万(円)

 となる。自主公演と合わせても4億弱か…。さっき「ドンブリ勘定」で弾き出した支出の総額「5億円」には1億円足りない。これは確かに苦しいな。前述の「クラシックを聴こう!」を見ても、三大都市圏以外で収入が5億円を超える楽団は皆無だし、読売日響のような東京の有名オケでも収入は4.8億である。
 となると補助金や企業からの寄付金をもう少し増やすことはできないものか、ということになる。自治体からの補助金云々についてはまた別の機会に譲るとして、現状では管弦楽団に対する企業の投資額は確かに少ない。Jリーグの各クラブが数億ものスポンサー収入を得ているのに比べるとなおさらだ。件の「クローズアップ現代」では、「関西の企業がオーケストラに出資する金額は全体で3億円」と紹介されていたが、平成17年度のガンバ大阪(J1)の広告収入は16億8000万円、セレッソ大阪(当時J1)も11億1000万円を広告から得ている(参照5)。この月とスッポンほどの差はどこから来るのだろう。
 結局は「露出度」の差なのだろうか。そりゃサッカークラブはテレビ中継もあるし、スポーツニュースにも登場する。しかしスカパー以外は地元UHF局でのオンエアしか露出の機会の無いJ2のクラブでさえ結構な額の広告収入があるのを見ると、「ウーン」と考え込んでしまう。一時経営危機が叫ばれたヴァンフォーレ甲府の場合、地方クラブでありながら約2億5000万円を広告だけで稼ぎ出しているのだ。