もうワルツ踊りっぱなし

ワルツを踊れ Tanz Walzer

ワルツを踊れ Tanz Walzer

 くるりの新作「ワルツを踊れ」をゲットしてから、もう車の中でも家の中でもヘビーローテーション状態なのです。
 「ウィーンでレコーディングした」という宣伝文句、そして聖シュテファン寺院を大写しにした裏ジャケを見ると、くるりがここで「変化球」を投げたように思えるけど、実際音楽を聴いているとそうではない。むしろこれまでの活動の延長線上を「真っ直ぐ」に歩んでいるようにすら思える。
 デビュー時から彼らの音楽には、上からバシッと叩きつけるのではなく、「横滑り」するような独特の「ビート感」があった。ムーディー勝山風に云えば「上から下へ」ではなく「右から左に受け流す」ような、そんな感じ。それが今回のアルバムではより顕在化している。というかタイトルにある「ワルツ」も、上下に激しくホップするのではなく横方向に旋回するダンスだ。彼らが以前から秘め持っていたリズム感覚が、「ワルツを踊れ」という題名を標榜することによって明確に「言語化」されたのではないか。
 以下は思いつくまま箇条書き;

  • 「これまでのくるりの延長線上」と書いたけど、岸田繁が最近のめり込んでいるクラシック音楽(どうも彼はアーノンクールのファンらしい*1)の影響は覆い隠しようが無い。「ブレーメン」(Track 2)の終結部での唐突なテンポ転換は、まるでベートーヴェン「第九」終結部のようだし、中欧的情緒あふれる「ハヴェルカ」(Track 12)では、マーラー張りのラッパの音も聞こえてくる。
  • 「ホールトーン」「アルコ」「ピッツィカート」など、楽典用語がこれほど頻出するロック・アルバムって、「ボヘミアン・ラプソディ」以来じゃないか(笑)。
  • あと、ほとんど最初から最後までヴォーカルがハモっている「JUBILEE」て、なんだかオペラの二重唱みたい。個人的にはビゼー「真珠採り」からのアリア「聖なる神殿の中で」を思い起こさせてくれた。
  • 何かこのアルバム、「水」にちなんだ単語が多いな。「雨」「雫」「水たまり」「夕立ち」。そして「涙」。ちょっとタケミツっぽいかも。
  • 冒頭の「ハイリゲンシュタッド」から、いきなり「言葉はさんかく こころは四角」(Track 13)にすっ飛ばしてみよう。あまりにスムーズに音楽が繋がっているので驚くはず。インスト・ナンバーがまるで序奏のように聞こえてくる。
  • 「ハムたべたい」(Track 8)が、まるで矢野顕子のアノ曲みたいという声もあるけど、詩の世界が全然違うので私的には全然オッケー。むしろその前の「恋人の時計」を聴いていて、西岡恭蔵の「プカプカ」を思い出したのは私だけ?

*1:岸田繁は、去年アーノンクール指揮ウィーン・フィルの来日公演を聴いて「もうロックとかポップスとか聴けなくなりそう」なほどのショックを受けたことを「ミュージック・マガジン」誌2007年1月号(pp.56)で告白している。また公式サイトの今年7/7日の日記には、アーノンクールバルトークを聴いて興奮した様子が記されている。