JR北陸線直流化が敦賀にもたらすもの

 これまで長浜以北は交流区間だったJR北陸本線敦賀まで直流化する工事にメドがつき、開業日が今年10月21日と決まった(参照)。敦賀には米原経由・長浜止まりだった新快速が延伸するほか、敦賀〜長浜間の近江塩津駅から湖西線経由で新快速や普通車両が乗り入れることとなる。総工費は161億円(見込)。敦賀〜京都間が新快速(湖西線経由)で約75分で結ばれる予定である。
 さて「直流化が敦賀にもたらすもの」と勿体ぶったタイトルを付けてはみたものの、正直しばらくは目に見える変化はないのではないか。京都がぐっと近くなることでベットタウン化が進むのでは、という人口増加に期待する意見もあるが、「大阪都心まで2時間弱」というのは関西に住むものにとっては遠すぎるような気がする。首都圏在住者には「通勤に片道2時間」は珍しくないらしいが、兵庫県三田市和歌山県橋本市京都府京田辺市といった、関西近郊で人気のベッドタウンはどこも駅から大阪都心まで60分程度の距離である。これ以上都心から遠く離れた沿線では、まだまだのどかな田園風景が広がっている。
 その代わり(ということなのかどうかは不明だが)、地元では観光客誘致の目玉として「敦賀ラーメン」をブランド化する作戦(参考)に出るようだが、これが実際に集客に結びつくかは疑問だ。確かに夜の屋台は有名らしい(私は未訪)が、一度敦賀で一番行列のできるラーメン店に行ったとき、その過剰なまでの胡椒の量につい箸が止まってしまったのを憶えている。京阪神から新快速に乗ってやってきたラーメンヲタクがあの店に入ったら二度と敦賀に来なくなるんじゃないか、と思ったほどだ。まあ敦賀ラーメンの名誉のために申し上げると、うまい店も幾つかある。しかし新快速に乗ってわざわざ食べに行くほどの強い個性は感じられない。観光や仕事のついでに立ち寄って軽く頂くのがふさわしいような気がする*1。むしろ敦賀で間違いなく旨い食べ物といえば魚介類だ。越前産や若狭産の魚介類は新鮮で、買ってすぐ刺身で食べると当然うまいし、冷蔵庫で数日置いてから調理しても十分いける。こないだ食べたカニは、一杯250円ほどの小さいカニだったけど旨かった〜。そうだな、水産物なら新快速に乗って敦賀まで出かける値打ちはあるな。
 まあ要するにいいたいのは、総工費161億円に見合った経済的効果を新快速乗り入れに期待するのは難しいのではないかということなんだけど、それとは別に私が思うのは、関西からの電車乗り入れが敦賀や嶺南地方の住民に及ぼす心理的影響である。福井県は大体北陸トンネルのあたりを境目に「嶺北」(福井・武生・鯖江など)と「嶺南」(敦賀・小浜など)に分けられるが、嶺北と嶺南では言葉が違う(北陸系の「嶺北」に対し、「嶺南」は関西弁に近い)し、電力会社も違う(嶺北北陸電力、嶺南は関西電力)。果てには好きな野球チームも、嶺南は阪神ファンが多数派なのに対し、嶺北では中日ファンが相当数存在する。もともと嶺南地方、昔の若狭国は北国からやってきた物資を京都や大坂へと運ぶ中継地として栄えたこともあり、関西との結びつきは以前から深いものがある。直流化により「姫路」「京都」という表示の電車が行き交うことで、これまで以上に嶺南地方の住民が自らを「関西人」として意識していくのではないだろうか。折りしも「道州制」が議論される中、敦賀市長は「嶺南地方は福井県から離れ、関西州に組み入れるべきだ」という趣旨の発言をしている。

*1:ちなみに個人的には敦賀のB級グルメの王様は(ソース)カツ丼だと思う。ただ敦賀は「パ軒」ことヨーロッパ軒の完全なる支配下に置かれていて、味のバリエーションにはいささか欠けるところがある。対抗勢力たる新しい味のお店の出現を期待したい。