太平洋戦争中の音楽事情

http://www.ne.jp/asahi/yasuyuki/koseki/read_1a.htm
↑「昭和戦中期の音楽雑誌を読む」。
 ここはすでに知る人ぞ知るサイトだったらしいが、私は今日までこのサイトのことを知らなかった。このサイトは太平洋戦争中の日本、そして東アジアの音楽事情を知る上で非常に役に立つ。詳しくはリンク先をご覧頂くとして、戦時中の「音楽之友」は情報収集や宣伝、マスコミ対応などの任務と司る立場にあった「情報局」から発信される音楽に関する政策を広く一般に伝える役割を担っていたことが伺える。記事の主要な部分を占めるのは当時の現役音楽関係者による論文だが、「大東亜音楽文化建設の指標」(諸井三郎:昭和十七年三月号)、「大東亜戦争と音楽」(平出英夫:昭和十七年五月号)「国に捧げよう我等の音楽を」(堀内敬三:昭和十七年十二月号)など当時の状況を反映したものが並ぶ。また山田耕筰の筆による記事(「決戦下楽壇の責任」:昭和十八年四月号)には「楽壇は音楽のために存在するのではなく、皇国のために存在する」とある。これを彼個人の意見と決めつけるのは戦時下の特殊な状況を考慮すると早計だと思うが、少なくとも当時の音楽界の雰囲気を反映したものではないかと考える。また情報局の高官のインタビュー記事も掲載されていて、その高官(宮澤縦一)は戦時下で音楽活動を行うことの是非について

音楽のようなものはむしろ大いに国家のお役に立つことがたくさんあるのではないかと考える。
(昭和十七年 二月号から)

と活動を奨励する一方

ジャズまたはこれに類する卑俗低調な音楽は、これを機会に一掃するのは絶対に必要だ。
(同上)

といわゆる「退廃音楽」を排除する方針を明確に表明している。
 また創作活動については

ベートーヴェンがあくまでドイツ的であったように、日本独特にして万民普遍的な音楽を発展させたい
(昭和十六年十二月号 「日本音楽文化協会の根本理念と実践要領」から

と日本人作曲家の育成を国策として明確に打ち出している。この政策の成果が昨今のNAXOSレーベルの「日本作曲家選輯」シリーズでリバイバルした橋本國彦や大澤壽人などの作品群なのだろう。
 ただ決して政治的内容ばかりではなく、今でも読んでいて感心するような内容の、興味深い記事もたくさんある。(この項続く)